遠い山なみの光

もう遠い昔になったある夏の、せいぜい数週間のこと ー

遠い山なみの光 カズオ・イシグロ
小野寺健訳 早川書房

”朝鮮で戦争がおこなわれていた”と書かれているので、

日本では戦後まもない5~6年後のころのことでしょうか。

今は英国で暮らす主人公悦子の、

”それまでにくらべると一息ついた穏やかな時期”の長崎での

遠い昔あるひと夏の記憶 ー

出産を控え穏やかな暮らしをしていた悦子は

川岸のあばら家に暮らす佐知子と親しくなります。

安定した暮しを自ら懸命に肯定しようとする悦子と

先の見えない未来に突き進んでいこうとする佐知子

一見、相容れないように思えた二人の女性に瞬間折り重なる人生の交錯 ー

好景気に沸いた戦後にも、復興から取り残された人や

忘れられない記憶から必死に前を向こうとする人がいたこと

”あなたの人生はこれからなのよ”

長崎の海の先に美しい山なみ、戦後を懸命に生き抜いた人たちの

この物語の記憶は

いつかあいまいになろうとも、今はただ静かな余韻に浸って…

映画もお薦めです

「そう、何もとくべつなことはなかったの。ただの幸せな思い出、それだけだわ」

遠い山なみの光 カズオ・イシグロ 小野寺健訳 早川書房