行く、行った、行ってしまった

どこへ行けばいいかわからないとき、人はどこへ行くのだろう?

行く、行った、行ってしまった
ジェニー・エルペンベック 浅井昌子訳 白水社

「行く、行った、行ってしまった」(Gehen,Ging,Gegangen)

 ードイツ語の不規則動詞活用法

祖国アフリカを追われ

多くの仲間が命を落としたボートで海を渡り遠い陸路を

ようやっと辿り着いた国で学んだ言葉

”目に見える存在になりたい”

強制退去の危機を前にして、流れ着いた難民の人々の悲痛な願い…

ある日、ベルリンに住む主人公のリヒャルトは驚く

すぐそばを通っていたのに、なぜなにも聞こえなかったのだろう?

なぜその姿が見えなかったのだろう?と

難民たちと交流を深めていく中で

彼らが失ったものの大きさ、先の見えない未来への絶望に

その立場は逆さであったかもしれないとの思いを巡らせる

かつてのドイツでもあった壁の向こう側とこちら側、ベルリンの

それ以前とそれ以降

目に見える境界と目に見えない境界の境い目はどこにある?

国境とはなんだろう?

物語の最後、リヒャルトの誕生日パーティに集う大勢の人たちが、焚火を囲い

一人の人間と人間として共に過ごす静かで穏やかな時間が

尊い祈りのようで…